「線維の作り替え現象」 を導く鍵因子を同定 ~ポーラ化成 世界的に権威ある化粧品技術者学会にて発表~

ポーラ・オルビスグループのポーラ化成工業株式会社(本社:神奈川県横浜市、 社長:釘丸和也)は、 2022年9月19日~22日に開催される第32

回国際化粧品技術者会連盟(以下 IFSCC)世界大会のポスター発表部門において、 皮下組織における「線維の作り替え現象」を解明した結果を発表します。

この知見は、 今後、 ポーラ・オルビスグループの商品・サービスに応用されます。 ■論文タイトル

『リビルディングによって皮膚再生に導く鍵因子の同定 ~美容医療より着想を得て~』

英文名: “Identifying a gene orchestrating skin regeneration via tissue rebuilding

~Inspiration from aesthetic treatments~”

発表者: 木内 里美1、 大石 貴矢1、 張 優希1、 Tiago J.S. Lopes2、 落合 博子3、 五味 貴優1

1ポーラ化成工業(株) フロンティアリサーチセンター、 2国立成育医療研究センター 再生医療センター

3独立行政法人国立病院機構 東京医療センター 形成外科

■発表内容概要

美容医療は、 その多くが皮膚に一定のダメージを与えるにもかかわらず、 確かな肌改善効果をもたらします。 例えば脂肪由来幹細胞※1を皮下注入する施術では、

蓄積した古い線維を新しい線維に作り替える「線維の作り替え現象」により、 シワ・たるみ等の老化肌悩みが改善することが分かっています。 しかし、

その詳細なメカニズムは未だ明らかではありません。

そこで我々は、 施術後に起こる生体反応を解明することで、 線維の作り替えを導く鍵を握る生体因子(鍵因子)を見出すことにしました(図1)。 鍵因子が分かれば、

美容医療に代わる「線維の作り替え」の促進方法につながることが期待されます。

※1 脂肪組織中の体性幹細胞

【研究で分かったこと】

新鮮な皮下組織片を用いた実験系を構築し、 脂肪由来幹細胞がうみだすTSG-6※2が線維の作り替えの鍵因子であることを突き止めました。

またTSG-6が働くメカニズムには、 好中球が関わることも分かってきました。 ※2 脂肪由来幹細胞がうみだす主要な抗炎症因子の一つ

脂肪由来幹細胞を注入した皮膚は、 たとえそれが皮膚へのダメージを伴う施術であっても、 TSG-6の働きにより線維の作り替えに導かれます。 TSG-6は、

好中球細胞外トラップ※3の形成を阻害することで、 線維化※4を抑制し、

それによって線維の作り替え方向に組織が向かうことを促す鍵因子であると考えられます(補足資料1)。

※3 好中球が細胞内物質を放出して形成する構造物 ※4 変性したコラーゲン等の線維が過剰に蓄積すること

【展望】

鍵因子TSG-6の発見は、 美容医療に代わる製品やサービスで「線維構造の作り替え」を達成できる可能性を切り拓くものと考えます。

また「線維の作り替え」を導く本知見は、 これまで困難とされてきた傷跡改善や、 美容医療のアフターケアなどへの幅広い展開が期待されます。

従来の皮膚科学研究は、 肌悩みを引き起こす原因を解明し「老化をくいとめる」アプローチが中心でしたが、 肌悩みの改善に至る生体反応を明らかにした本研究は、

「よい状態へ回復させる」新たなケアの可能性を切り拓くものです。 ポーラ化成では、 確かな効果を発揮する肌悩み改善策を実現すべく、

今後もさまざまな側面から研究を積み重ねていきます。

【補足資料1】脂肪由来幹細胞の皮下注入により、 「線維の作り替え」が起こる推定メカニズム

新鮮な皮下組織片を用いた実験系を用いて、 次の3点を明らかにしました。

1. 脂肪由来幹細胞と共培養した皮下組織では、 ダメージをうけた後の炎症状態が速やかに終息し、 線維の作り替えが起こる

2. この現象は、 鍵因子TSG-6によって引き起こされる

3. TSG-6は、 好中球細胞外トラップの形成を阻害することで、 組織が線維化方向に向かうことを抑制する

《本知見に基づく「線維の作り替え現象」のメカニズム》

ダメージを受けた皮膚において、 好中球は細胞外トラップを形成します。 脂肪由来幹細胞の働きが弱い場合、 好中球細胞外トラップの形成に歯止めがきかず、

それによって組織は長らく炎症状態におかれてしまいます。 このことはI型コラーゲンの過剰な新生を引き起こし、 線維化への移行を促します(図2・上)。

一方で脂肪由来幹細胞が充分に働く場合、 脂肪由来幹細胞からうみだされたTSG-6が、 好中球細胞外トラップの形成を阻害します。

これにより組織の炎症状態は早期に終息し、 I型コラーゲンの一過的な分解とそれに続く新生が誘導され、 線維の作り替えを促します(図2・下)。

【補足資料2】IFSCCについて

IFSCC世界大会は、 世界中の化粧品技術者・研究者にとって最も権威のある学会で、 最先端の化粧品技術が披露されます。 応募論文はIFSCC

の厳正な審査を受け、 選ばれたものだけに発表が許されます。 今回は口頭で78件、 ポスターではそれを上回る多数の発表が予定されています。

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