米ぬか由来ナノ粒子の抗がん作用を確認 ~未利用資源を原料とした安価で安全なナノ粒子製剤開発に期待~

~未利用資源を原料とした安価で安全なナノ粒子製剤開発に期待~ 【研究の要旨とポイント】

* 米ぬかから得られるエクソソーム様ナノ粒子が、優れた抗がん作用を示すことを明らかにしました。

* このナノ粒子は、β-カテニンやサイクリンD1などの発現抑制を通じてがん細胞の細胞周期を停止させ、アポトーシスを誘導することで、抗がん作用を発揮すると考えられます。

* 米ぬかという未利用資源を原料として、安価で安全ながんの新規治療薬を開発できる可能性が示されました。

【研究の概要】

東京理科大学薬学部薬学科の西川 元也教授、鈴木 日向子氏(2021年度卒業)、板倉 祥子助教、同大学薬学研究科薬科学専攻の佐々木

大輔氏(2023年度博士後期課程修了)、同大学薬学部生命創薬科学科の草森 浩輔准教授らの研究グループは、エクソソーム様の米ぬか由来ナノ粒子(rbNPs;

rice bran-derived nanoparticles)が優れた抗がん活性を有することを明らかにしました。

近年、植物由来のナノ粒子は低コストで大量に調製可能であり、医薬的に有用な生理活性を示す報告が相次いでいます。精米過程で発生する副産物である米ぬかはあまり活用されておらず、大量に廃棄されています。しかし、米ぬかにはγ-オリザノールやγ-トコトリエノールなど抗がん作用を示すさまざまな物質が含まれることから、rbNPsはがん治療の新規治療薬候補として有望であろうと期待されます。

本研究グループは、コシヒカリの米ぬかをリン酸緩衝生理食塩水に懸濁し、遠心分離後、シリンジフィルターで濾過した濾液を超遠心分離した沈殿物を懸濁することでrbNPsを得ました。

rbNPsはがん細胞にのみ特異的に細胞傷害作用を示し、マウス結腸がんcolon26細胞に対して、他の植物由来ナノ粒子や抗がん剤として用いられているドキシル(R)よりも高い細胞傷害作用を示しました。その背景には、β-カテニンやサイクリンD1などの発現抑制を通じてがん細胞の細胞周期を停止させ、アポトーシスを誘導するというメカニズムがあることも突き止めました。

rbNPsが培養細胞だけでなく、動物レベルでもこうした抗がん作用を示すかを確かめるために、colon26細胞を移植した腹膜播種モデルマウスにrbNPsを腹腔内投与しました。その結果、rbNPsは副作用を示すことなく、がん細胞の増殖を顕著に抑制しました。

以上の結果から、rbNPsは新たながん治療薬候補として極めて有望であることが示唆されました。

本研究成果は、2024年3月16日に国際学術誌「Journal of Nanobiotechnology」にオンライン掲載されました。

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https://www.tus.ac.jp/today/archive/20240422_3252.html)をご参照ください。

図. 本研究の概要。rbNPsは細胞周期を停止させ、アポトーシスを誘導することで抗がん作用を示すことが明らかになった。

【研究の背景】

医薬品の開発・製造コストは年々増加しており、医療費を圧迫する大きな要因になっています。そこで、コストを抑え、かつ環境負荷を低減できる原料として、未利用のバイオマス資源の利用が注目されています。

本研究グループは、そうした未利用資源の候補として、近年、バイオ医療分野で盛んに研究が進んでいる植物由来のナノ粒子に着目しました。植物の細胞から放出されるナノ粒子であるエクソソームなどの細胞外小胞は、細胞間コミュニケーションや他の生物との相互作用などにおいて重要な役割を果たします。そのため、植物由来ナノ粒子はユニークな生理活性を示し、がんや炎症性疾患などへの効果も報告されています。こうした植物由来ナノ粒子の一部は臨床試験に進んでいますが、薬理学的活性が十分ではなく、まだいずれも治療薬として承認にまでは至っていません。そのため、新たな薬の候補となる植物由来ナノ粒子の探索が進められています。

米ぬかは大部分が利用されずに廃棄される未利用バイオマスのひとつであり、米ぬかにはγ-オリザノールやγ-トコトリエノールなど抗がん作用を示すさまざまな物質が含まれます。そこで本研究グループは、米ぬかから品質が安定したナノ粒子の製造方法を確立することができれば、新たな抗がん剤の原料となるのではと考え、研究に取り組みました。

【研究結果の詳細】

コシヒカリの米ぬかをリン酸緩衝生理食塩水に懸濁し、懸濁液を撹拌して遠心分離後、上清を孔径0.45

μmのシリンジフィルターで濾過して粗い残渣を取り除き、濾液を回収しました。そして、超遠心分離した沈殿を懸濁し、孔径0.22

μmのシリンジフィルターで濾過することでrbNPsを得ました。

得られたrbNPsは、平均粒子径が約130

nmで、負に帯電しており、エクソソーム様の中空膜構造を有していました。なお、rbNPsは米ぬかから効率良く調製可能であり、平均収量は米ぬか100

g当たり約4×10 13個でした。

こうして得られたrbNPsについて、がん細胞への影響およびその背後にある作用機序について明らかにするため、以下の実験を行いました。

1. がん細胞株および非がん細胞株に対する細胞増殖抑制作用

がん細胞株と非がん細胞株にrbNPsもしくは比較対象として粒子径と電荷がrbNPsに近いコントロールNPsを添加し、細胞増殖抑制作用を比較しました。その結果、コントロールNPsではいずれの細胞株に対しても有意な細胞数の変化はなかった一方、rbNPsでは非がん細胞株に対しては有意な細胞傷害性を示しませんでしたが、がん細胞株に対しては粒子濃度依存的な細胞増殖抑制作用を示しました。これは、rbNPsががん細胞に対して選択的な細胞増殖抑制作用をもつことを示唆しています。

2. マウス結腸がんcolon26細胞に対する細胞増殖抑制作用の比較

Colon26細胞に対するrbNPsの細胞増殖抑制作用を、これまでに報告されているブドウ、ショウガ、レモンの植物由来NPs、抗がん剤として使用されているドキシル(R)と比較しました。

まず、植物由来NPsとの比較では、レモンとショウガ由来NPsは高濃度でcolon26細胞の数を有意に減少させたもののrbNPsには及ばず、rbNPはすべての濃度でcolon26細胞の数を最も減少させました。続いて、rbNPsの細胞増殖抑制作用をリポソーム化抗がん剤であるドキシル(R)と粒子数ベースで比較した結果、ドキシル(R)は0.1~10×10

9粒子/mLまでcolon26細胞数の減少はほぼみられませんでしたが、rbNPは0.1×10

9粒子/mLという低濃度でも有意な細胞増殖抑制作用が確認されました。

3. Colon26細胞に対する細胞増殖抑制作用機序

超高速液体クロマトグラフ質量分析およびガスクロマトグラフ質量分析により、米ぬかに含まれる主要な抗がん作用をもつ化合物、すなわちフェルラ酸、γ-オリザノール、α-トコフェロール、γ-トコフェロール、γ-トコトリエノールがrbNPには高濃度に含まれることが確認できました。

次に、rbNPs添加が細胞の増殖および細胞周期に与える影響を明らかにするため、細胞増殖を制御するβ-カテニン、細胞周期を調節するサイクリンD1のメッセンジャーRNA(mRNA)発現量の変化および細胞周期解析を行いました。その結果、rbNPs添加により、β-カテニンとサイクリンD1のmRNA発現量は有意に減少し、colon26細胞のG1期とS期の割合が有意に減少し、G2/M期の割合が有意に増加しました。これは、rbNPs添加により細胞周期が停止し、細胞増殖が食い止められていることを示唆する結果です。また、rbNPsはDNA断片化とクロマチン凝縮を誘導したことから、colon26細胞のアポトーシスを誘導することも示されました。

4. 腹膜播種モデルマウスにおけるrbNPsの抗腫瘍効果

Colon26細胞を移植した腹膜播種モデルマウスにrbNPsを腹腔内投与したところ、体重の減少を引き起こすことなく、colon26細胞の腹膜播種を顕著に抑制することが示されました。この抗腫瘍効果は、colon26細胞に対するrbNPの直接的な細胞傷害活性に加えて、マクロファージを活性化することによる腫瘍壊死因子αなどのサイトカイン産生によると考えられます。

以上の結果から、rbNPはがん細胞選択的で強力な細胞増殖抑制作用を示し、抗がん剤の効果が限定的で予後不良な腹膜播種に対しても、がん細胞増殖を有意に抑制することが明らかになりました。

研究を主導した西川教授は「米ぬかナノ粒子の安定した製造方法を確立し、ヒト細胞を用いた検討において安全性と有効性を確認することができれば、安価でかつがん治療に有用なナノ粒子製剤の開発につながるでしょう」と、今後の研究開発への意欲を語っています。

※本研究は、小野薬品工業株式会社の助成を受けて実施したものです。

【論文情報】

雑誌名:Journal of Nanobiotechnology

論文タイトル:Development of rice bran-derived nanoparticles with excellent anti-cancer

activity and their application for peritoneal dissemination

著者:Daisuke Sasaki, Hinako Suzuki, Kosuke Kusamori, Shoko Itakura, Hiroaki Todo

and Makiya Nishikawa

DOI:10.1186/s12951-024-02381-z

URL:

https://doi.org/10.1186/s12951-024-02381-z