子宮頸がんの早期発見減少、コロナ禍の「検診控え」影響か

代表世話人:望月泉=岩手県八幡平市病院事業管理者・岩手県立中央病院名誉院長)の調査によると、がんの進行度で早期段階を示す「ステージ1」について、2022年は子宮頸がんが減少傾向となり、すい臓がんは増加傾向を示したことが分かりました。子宮頸がんは新型コロナウイルス感染拡大期における「検診控え」の影響が考えられます。

15~39歳女性のがんが1割減少

調査は入院医療における診療データ「DPCデータ

※2」を用いて実施。データはCQI研究会に参加する医療機関(2019年から2022年までのデータがそろっている107病院、患者数は266万1760人)が提供し、CQI研究会の事務局で急性期病院の経営支援を行うグローバルヘルスコンサルティング・ジャパン(GHC※3

本社:東京都新宿区、代表取締役社長:渡辺幸子)が分析しました。

分析によると、2022年までの3年間で、がんの症例数で最も変化があったのは「AYA世代」と呼ばれる15~39歳の女性。2年前の2020年と比較すると、2022年の症例数は1割以上減少しました。AYA世代の女性で最も多い症例は子宮頸がんで、2022年の症例数は2019年と比べて17.9%と2割近く減少していました。

入院 性・年齢階級別 がん症例数変化 年次推移(19年度基準。出典「第16回CQI研究会」)

入院 性・年齢階級別 がん症例数変化 年次推移(19年度基準。出典「第16回CQI研究会」)

がん進行度の指標では、2022年の子宮頸がんにおけるステージ1の占有率は、2019年と比べて2.1%減の43.9%、ステージ2は0.4ポイント減の17.7%、ステージ3は4.2ポイント増の27.1%、ステージ4は1.3ポイント減の11.3%でした。

子宮頸がんの年度別 ステージ構成割合(DPCデータ様式1より初発がん患者の初回入院・UICCのTNMから示される病期分類に基づき実患者数を集計。

子宮頸がんの年度別 ステージ構成割合(DPCデータ様式1より初発がん患者の初回入院・UICCのTNMから示される病期分類に基づき実患者数を集計。

これについて、今回の分析を担当した医師でGHCコンサルタントの西田俊彦は「コロナ流行期に、若年女性の子宮がん検診未受診が増えたことにより、本来であれば早期に発見されるべきがんがより進行した段階で診断されている可能性がある」と指摘しています。

すい臓がん早期診断「尾道方式」効果の可能性

一方、同じ期間で早期発見が増加している症例も見られました。

2022年のすい臓がんにおけるステージ1の占有率は、2019年と比べて3.7%増の16.1%、ステージ2は0.6ポイント減の22.2%、ステージ3は1.0ポイント減の13.6%、ステージ4は2.1ポイント減の48.1%でした。ステージ1、2の占有率が3ポイント増加する一方、ステージ3、4は3ポイント減少に転じています。

すい臓がんの年度別 ステージ構成割合(DPCデータ様式1より初発がん患者の初回入院・がん取り扱い規約に基づくがんのStage分類にも続き実患者数を集計。実患者数=入院が複数回あっても1名としてカウント。出典「第16回CQI研究会」)

すい臓がんの年度別

ステージ構成割合(DPCデータ様式1より初発がん患者の初回入院・がん取り扱い規約に基づくがんのStage分類にも続き実患者数を集計。実患者数=入院が複数回あっても1名としてカウント。出典「第16回CQI研究会」)

GHC社長の渡辺は、今回の分析結果を受けて、中核病院と地域の連携施設が協力して膵臓がんの早期診断を目指す取り組み「尾道方式」(広島県尾道市医師会で始まり、中国・四国・近畿地方など約20か所で展開される。詳細は<suizou.org/pdf/pancreatic_cancer_cpg-2022.pdf>の347ページ参照)の活動に言及。その上で今回の分析で中国・四国・近畿地方のすい臓がんの初診数が増加傾向を示したことに触れ、「病院単位で確認したわけではないので因果関係は明確ではないものの、尾道方式が同地方のすい臓がんの初診数増加を促し、早期発見の増加に影響を与えた可能性も考えられる」(渡辺)としています。

今回の分析では、DPCデータを用いて、全がん種別に死亡退院の割合を経年比較しましたが、大きな変化は見られませんでした。ただ、DPCデータは病院ごとの入院データなので、「転院や在宅医療での経過を追ったものではない。今回の分析をもって死亡率に変化がないと安易に結論付けることはできない」(渡辺)ともしています。

子宮頸がんとすい臓がんのデータ分析は、8月26日開催の第16CQI研究会の講演「COVID-19の影響」から抜粋しました。本講演ではコロナを経たがん患者の状況をさまざまな視点から分析しています。詳細については開催報告の記事(<

https://www.ghc-j.com/news/pr/news-14151/>参照)、講演の動画(『COVID-19の影響<

https://www.youtube.com/watch?v=JEc45FDut9c>』参照)をご確認ください。

(※1)CQI(Cancer Quality Initiative)研究会

日本のがん治療の質向上および均てん化を目的に2007年設立。がん診療連携拠点病院等の約4割となる213施設がCQIの会員である(2023年3月現在)。世話人病院は次の通り(北より記載)。▽岩手県立中央病院

名誉院長:望月 泉(代表)▽栃木県立がんセンター 副理事長兼副センター長:藤田 伸▽千葉県がんセンター 診療部長・治験臨床研究センター長:石井

浩▽神奈川県立がんセンター 副院長・地域連携室長・泌尿器科部長:岸田 健▽愛知県がんセンター 病院長:山本 一仁▽四国がんセンター 血液腫瘍内科医長:吉田

功▽九州がんセンター 院長:藤 也寸志。

https://www.ghc-j.com/science/cqi/

(※2)DPCデータ

包括支払い方式で入院医療費を請求する「DPC(診療群分類別包括払い)制度」の対象病院が作成を義務付けられているデータ。DPC制度は、従来型の出来高制度と比較して、1日当たりの報酬が決まっているため、過剰な診療の抑制や必要なコスト削減を促すことが期待できる。主に病床数が多く、重症患者を診療する急性期病院の多くが導入している。対象病院は1764病院(2022年4月時点)。

(※3)株式会社グローバルヘルスコンサルティング・ジャパン

医師、看護師、薬剤師など医療資格者が在籍する急性期病院の経営コンサルティングファーム。最大950病院の診療データをベースに、医療と経営の質向上を目指したコンサルティングおよび経営分析システム「病院ダッシュボードχ(カイ)」を提供する。累計クライアント数は700病院超。日本病院会と業務提携して中小出来高病院向け経営分析レポート「JHAstis(ジャスティス)」の執筆・配信を担当する。

がん診療拠点病院の4割が参加する「CQI研究会」(別項に詳細)の事務局や米メイヨークリニックとの共同研究など国内外の医療機関等との研究事業も精力的に行う。財務省の「財政制度等審議会

財政制度分科会」の政策決定や日本集中治療医学会の政策提言に用いるデータ分析を手がけたほか、「コロナ危機下の医療提供体制と医療機関の経営問題についての研究会」では委員も務めて、今後の医療提供体制に向けて極めて重要なデータ分析を担当した。

「アキよしかわの『ポストコロナの時代の病院経営』」(日経メディカル・オンラインで2020~2021年連載)など寄稿のほか、日本放送協会などテレビ、日本経済新聞など新聞、「週刊ダイヤモンド」や「週刊東洋経済」など取材対応多数。主な著書・論文は『医療崩壊の真実』(エムディーエヌコーポレーション)、『日米がん格差』(講談社)、“Geographic

variation in surgical outcomes and cost between the United States and Japan”

American Journal of Managed Care (2016 Sep;22(9):600-7)、“Taking the leap to make

bundled payments work Incentives drive realities in American, Japanese

healthcare systems” Medical Group Management Association (2015 Sep; Vol.

1.)、“Cancer in the Time of COVID-19 in Japan: Collateral Damage” Collateral

Global (2021)など。https://www.ghc-j.com/

https://www.ghc-j.com/

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