次世代の医療とは?

~水素は多くの病気の根源に働く副作用のない次世代の医療物質である~ MiZ株式会社は慶應義塾大学 環境情報学部 武藤佳恭教授と共同で、

水素は多くの病気の根源に働く次世代の医療物質の候補であることを総説形式の論文として発表しました。

MiZ株式会社は水素の医療利用を約30年に渡り研究開発するパイオニア企業です。 これまで、 水素のヒトへの供与手段の技術を開発し、

その開発技術を基に動物やヒトに対する有効性の研究を行い、 その研究成果を特許申請し権利化を行ってきました。

今回の論文は、 慶應義塾大学と共同でMiZ株式会社の開発技術の集大成として論文化を行うと同時に、

これまでの水素医療の現状と将来展望を総説形式で発表したものです。 論文では、 水素は多くの病気の根源に働くことから、 従来の薬の概念とは異なると報告しています。

そして、 水素の新型コロナウイルス感染症、

がんなどの多岐に渡る病気に対する臨床試験における有効性と副作用がないことから有望な次世代の医療物質候補になると報告しています。

本論文は、 2020年12月16日(欧州時間)にスイスを拠点とする多国籍出版社・PDMIの科学誌である「Clean

Technologies」のオンライン版に掲載されました。 1. 論文の要旨

水素は、 次世代のエネルギー源として有望視されている。 水素ガスを利用した医療分野への応用もまたクリーンで経済的な技術として考えられる。

水の電気分解によって生成される水素ガスは爆発する可能性があるため、 安全に希釈し、 吸入により生体に供給する技術が開発されている。 水素は、

活性酸素種(注1)の中の酸化力の強い物質であるヒドロキシルラジカルとペルオキシナイトライトを消去し、 水に変換することができる不活性分子である。

水素はクリーンで、 体内に有害作用を与えることはない。 水素は多くの病気の根源に働きかけるため、 従来の薬とはメカニズムが異なる。

水素は広範囲で多様な効果を持つことから、 病気に対する「ワイドスペクトラム分子」(注2)と呼ばれる可能性がある。 本総説では、

水素の医療応用の現状を調査研究し、 その創始と開発を含めた医療応用の可能性を提案した。 水素はその優れた有効性と副作用の無いことから、

次世代の医療応用候補として期待される。

2. MiZ株式会社の開発技術

2.1 水素ガスの吸入

水素ガスは可燃性であり、 体積比で4%から75%の非常に広い濃度範囲において空気中で爆発する。 しかし、

我々は様々な濃度の水素ガスの安全性を燃焼性と爆発性の観点から検討した結果、 水素ガスの爆発限界は10%以下であることを示した。 そこで、

我々は以下のような爆発する可能性が全くない安全な水素ガス吸入機を開発した(図1)。

図1 水素ガス吸入装置。

水の電気分解により生成された水素ガスと空気を混合して吸入ガスを調製し、

爆発限界以下の濃度制御を行っている。

図1 水素ガス吸入装置。 水の電気分解により生成された水素ガスと空気を混合して吸入ガスを調製し、 爆発限界以下の濃度制御を行っている。

2.2 水素水の飲用

水素は、 室温で大気圧下では1.6 ppm(1.6 mg/L)まで水に溶解させることができる。 しかし、 圧力が高くなると、 圧力に依存して水素が水に溶解する。

そこで、 我々は食品添加物に指定されている水素発生剤を用いて、 飲料用の10 ppm水濃度の超過飽和水素水を開発した(図2)。図2 超過飽和水素水の装置。

水素発生剤を含む不織布を水で湿らせアクリル樹脂製のチューブに挿入し、

ペットボトルにチューブを挿入した。

チューブ内で発生した水素ガスは、

逆止弁を介してペットボトル内に送られた。

図2 超過飽和水素水の装置。 水素発生剤を含む不織布を水で湿らせアクリル樹脂製のチューブに挿入し、 ペットボトルにチューブを挿入した。

チューブ内で発生した水素ガスは、 逆止弁を介してペットボトル内に送られた。

2.3 水素生食の注射

水素は水素溶解生理食塩水として静脈内または腹腔内に投与することができる。 そこで、 我々は以下の注射用水素溶解生理食塩水の器具を開発した(図3)。図3 水素含有生理食塩水の器具。

水素発生剤を入れた不織布を少量の水で湿らせ、

点滴袋と不織布の両方を減圧下にアルミ箔で包んだ。

水は不織布内の薬剤と反応して水素を発生させ、

バッグ内のポリエチレンフィルムを透過した水素ガスは溶液中に溶解した。

図3 水素含有生理食塩水の器具。 水素発生剤を入れた不織布を少量の水で湿らせ、 点滴袋と不織布の両方を減圧下にアルミ箔で包んだ。

水は不織布内の薬剤と反応して水素を発生させ、 バッグ内のポリエチレンフィルムを透過した水素ガスは溶液中に溶解した。

3.水素は病気の根源に働く

生物学的膜は水素に対して透過性があるので、 水素はその分布特性に関連して細胞質、 ミトコンドリア(注3)、 核に拡散する。 水素は、

哺乳類細胞では代謝系を持たず、 生体物質と相互作用しない不活性分子であるが、 ミトコンドリア内部で発生するヒドロキシルラジカルとのみ反応する分子である。 また、

水素自体は不活性物質であり、 水素とヒドロキシルラジカルの反応生成物は水分子であり、 腸内での水素の産生は腸内で行われるため、

水素による有害作用は多くの臨床試験で観察されていない。 最近の論文では、 水素はミトコンドリアに入り、

ヒドロキシルラジカルから水素の引き抜き反応を受ける唯一の分子であることを提唱している。

慢性炎症は多くの病気の根源である。 慢性炎症は多くの病気に関与しているため、 「慢性炎症が万病の元凶」と言っても過言ではない。 現代医療では、

急性炎症性疾患をコントロールすることはできても、 慢性炎症性疾患をコントロールすることはできない。 最近の研究では、

ミトコンドリア関連の活性酸素がNLRP3と呼ばれるインフラマソーム(注4)を活性化し、

その刺激が炎症性サイトカイン(注5)産生の引き金となることが報告されている。 水素のようなミトコンドリアに選択的なヒドロキシルラジカル消去剤は、

NLRP3インフラマソームの活性化につながるカスケードをブロックすることができる。

4. 水素医療の現状と将来展望

本論文では、 水素医学の進歩と展望について、 その創始と臨床応用を含めてレビューした。 水素は、 酸化ストレスや慢性炎症に関わるほぼすべての疾患に効果があり、

副作用もなく、 医療応用が容易である。 実際、 水素の臨床効果は70以上の論文で報告されている。 ほとんどの従来の薬は、

それぞれのターゲットに特異的に作用するが、 水素は多くの病気の根源に作用する。 水素は従来の薬とは効果や副作用の観点からも異なる。

水素は広範囲で多様な作用を持っているため、 病気に対する「ワイドスペクトラム分子」と言えるかもしれない。 また、 その優れた有効性と副作用の少なさから、

多くの疾患に対する臨床応用が期待されている。 水素は、 クリーンで経済的な医療技術を持つ次世代の治療応用候補となるであろう。

5. 論文

英文タイトル:Hydrogen is promising for medical applications

タイトル和訳:水素は医療応用に期待されている

著者名:平野伸一1、 、 市川祐介1、 佐藤文平1、 佐藤文武1、 武藤佳恭2

所属:1 MiZ株式会社・研究開発部、 2 慶應義塾大学・環境情報学部

掲載誌:Clean Technologies, 2020, 2, 529-541 (オンライン版)

雑誌URL:https://www.mdpi.com/2571-8797/2/4/33

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[用語解説]

(注 1)活性酸素種:空気中の酸素が反応性の高い化合物に変化したものの総称で、 一般的には(狭義には)スーパーオキシド、 ヒドロキシルラジカル、 過酸化水素、

一重項酸素の4種とされている。

(注 2)スペクトラム:抗菌剤や抗腫瘍剤では抗菌スペクトラム、 抗腫瘍スペクトラムが広いとして使われている。 水素は非常に幅広い病気に対する効果を示すので、

広いスペクトラム(分布範囲)という用語を使用した。

(注 3)ミトコンドリア:真核生物の細胞小器官である。 二重の生体膜からなり、 独自のDNAを持ち、 分裂、 増殖する。

ミトコンドリアDNAはATP合成(エネルギー合成)以外の生命現象にも関与する他、 酸素呼吸の場として知られている。

(注 4)インフラマソーム:複数のタンパク質からなるタンパク複合体で、

細胞質内の異物(病原微生物成分や尿酸結晶など)を宿主細胞に対する危険シグナルとして認識し、 細胞内のシグナル伝達を介して炎症性サイトカインの遊離を行い、

炎症反応の誘導や進展に重要な役割を果たす。

(注 5)炎症性サイトカイン:サイトカインとは、 主に免疫細胞から分泌される蛋白質で、 細胞間の情報伝達を担っている物質である。

サイトカインの中でも炎症症状を引き起こすものを炎症性サイトカインと呼ぶ。