吉村昭『破船』(新潮文庫)が2022年本屋大賞『発掘部門』で、「超発掘本!」を受賞

記録文学の第一人者・吉村昭が海からやってきた疫病の恐怖を描いた異色の長編小説『破船』。

本年度の本屋大賞『発掘部門』「超発掘本!」に選ばれました。

吉村昭『破船』(新潮文庫)が2022年本屋大賞『発掘部門』で、 「超発掘本!」に選ばれ、 4月1日に発表されました。

本屋大賞『発掘部門』「超発掘本!」は、 「ジャンルを問わず、 2020年11月30日以前に刊行された作品のなかで、 時代を超えて残る本や、

今読み返しても面白いと思う本をエントリー書店員が一人1冊選び、 さらにその中から、

これは!と共感した1冊を実行委員会が選出し『超発掘本!』として発表」されるものです。

* 吉村昭『破船』とは

『破船』の舞台は、 北の日本海に面した、 戸数17戸の寒村。 村の耕作地には乏しい作物しか育たず村人は常に飢えていた、 主人公の9歳の少年・伊作は、

年季奉公で不在の父にかわって一家を支えなければならない。 彼は浜辺で働き、 「塩焼き」に出る。 この「塩焼き」とは、 単に塩を作るだけではなく、

もう一つの役割として、 夜に塩を焼く明かりで船を引き寄せ、 船を岩礁で難破させ、 船の積荷を奪う手段になっていた。 村の生活は潤うが、

それは村ぐるみの犯罪でもあった。 この船の到来を願う祭りごとが「お船様」である。

今回は大量の米を積んだ船が「お船様」として破船し、 船にいた4人の男女は殺され、 伊作の家にも8俵の米が分配された。 翌年、 再び「お船様」が村に到来する。

しかし今度の「お船様」には積荷はほとんどなく、 中の者たちはすべて死に絶えていた。 骸が着ていた揃いの赤い服を村民たちは分配する。 しかし、 しばらくすると、

村人たち次々と病に倒れ死んでいくというおそろしい事態に。 「お船様」に乗った人々は、 天然痘に冒され、 他村から追放された者たちだったのだ……。

僻地の貧しい漁村に伝わる、 サバイバルのための風習「お船様」。 難破船が招いた、 悪夢のような災厄を描いた、 吉村作品の中でも異色の長編小説です。

(1980/7~1981/12雑誌連載、 1982/2筑摩書房単行本刊、 1985/3新潮文庫刊行)

* 推薦者の未来屋書店宇品店(広島県)の河野寛子様からは、 次のような力強い推薦コメントをいただいています。

「衝撃的です。 なぜこれまで映画化されてこなかったのか。 いわゆるホラーとはまた違う、 とてつもないイメージが描かれます。

今では考えられない村社会ならではの暮らしぶりや集団の論理を、 吉村昭は易しい文体で描いています。 お船様が運んできたものとは、 福の神か祟り神か……。

海の向こうからやってきたウイルス禍の中、 恐れの意味を理解できる今こそ、 強く紹介したい一冊として取り上げました。 」

* 執筆の背景

著者の吉村昭さんは、 『吉村昭自選作品集 第七巻』の後記で、 作品執筆の背景を次のように記しています。

「江戸初期の多くの古記録に、 一、 二行の気になる記述があり、 それを強く意識しはじめたのは、 かなり以前のことである。 荒天の暗夜の海で難儀する船を、

海岸に住む者たちが巧みに磯に誘って破船させ、 積荷などを奪うことがひそかにおこなわれていた、 と記されていたのである。

そのような記述が、 主として日本海沿岸の各地に残された記録にしばしばみられ、 私はこれを素材に小説に書くことを思い立った。

また、 恐るべき疫病であった疱瘡(天然痘)にかかった者からの感染を防ぐため、 それらの者を船に乗せて海に流したという記録も眼にして、

その両者を結びつけることで、 小説の構想は成った。

背景となるべき地について熟考した末、 佐渡ヶ島をえらんだ。 佐渡の習俗その他が豊かな内容をもっていることに、 関心をいだいたからである。

歴史文学の範疇に入るのだろうが、 古記録に散見する短い記述によって書き上げた虚構小説である。 」

『三陸大津波』『関東大震災』など過去の大災害を綿密な取材で克明に描き、 来るべき未来に警鐘を鳴らした吉村昭さんの、 54歳、 脂の乗り切った時期の作品。

コロナ禍の今、 ぜひ共みなさんにお読みいただきたい一冊です。

■著者紹介:吉村昭

1927-2006。 東京日暮里生れ。 学習院大学中退。 1966(昭和41)年『星への旅』で太宰治賞を受賞。 同年発表の『戦艦武蔵』で記録文学に新境地を拓き、

同作品や『関東大震災』などにより、 73年菊池寛賞を受賞。 以来、 現場、 証言、 史料を周到に取材し、 綿密に構成した多彩な記録文学、

歴史文学の長編作品を次々と発表した。 主な作品に、 吉川英治賞受賞作『ふぉん・しいほるとの娘』、 毎日芸術賞受賞作『冷たい夏、 暑い夏』、

読売文学賞・芸術選奨文部大臣賞受賞の『破獄』、 大佛次郎賞受賞作『天狗争乱』、 江戸末期、 種痘の普及に苦闘した町医者の生涯を描く『雪の花』などがある。

■書籍概要

【タイトル】破船

【著者名】吉村昭

【判型】文庫判(256ページ)

【定価】605円(税込)

【発売日】1985年3月27日

【ISBN】978-410-111718-8

【URL】

https://www.shinchosha.co.jp/book/111718/