4月16日、川端康成没後50年。知られざる川端のBL作品『少年』に大注目。発売からわずか2週間で3.刷決定

旧制中学の寄宿舎で、川端康成が熱烈に愛した「少年」とは。 4月16日、 川端康成の没後から50年の節目を前に、

知られざる川端のBL作品『少年』に注目が集まっています。 3月28日の発売直後からSNSで次々に感想が投稿されるなど、 日を追うごとに話題が拡大。 このたび、

さらなる増刷が決定し、 発売からわずか2週間で3.刷となりました。

『少年』は、 これまで全集でしか読めなかった、 貴重で珍しい作品。 1冊の本になるのは、 目黒書店より単行本が刊行された1951年以来、 70年ぶりのことです。

旧制中学の寄宿舎で、 川端が愛した〈美しい後輩の少年〉。 ひそやかな二人の特別な関係を描いた本書は購買層の特徴として、

BLファンの方からの圧倒的な注目があります。 互いにうなじも唇もゆるしあっていた二人の間に起きた出来事と、 痛切な別れ……。

本作を執筆するまで封印していた青春の蹉跌とは。 『伊豆の踊子』につながる川端文学の原点に〈BL〉があったとは――。

1968年にノーベル文学賞を受賞、 72年に突然の自死を遂げた川端康成。

日本を代表する文豪が、 少年時代、 〈ヤングケアラー〉ともいえる悲惨な暮らしをしていたことは、 あまり知られていません。

大阪市天満此花町に生まれた川端康成は、 幼くして父母を亡くし、 七歳にして祖父と二人で暮らすようになります。 家計は貧しく、 大坂府立茨城中三年生の時は、

学校から帰ると病中の祖父を介護し、 世話をする日々。 尿瓶の底に響く小水の音を「谷川の清水の音」と表現した感性の持ち主でしたが、 客観的にみれば、

まさしく「ヤングケアラー」の典型でした。 介護の甲斐もなく祖父が死ぬと、 文字通り独りになった川端は16歳にして中学の寄宿舎に入り、

卒業までここで過ごすことになります。

十代の川端が、 孤独と屈折を抱えていたことは想像にかたくありません。 そんな川端の前に現れたのが、 同室の美しい後輩「清野少年」でした。

川端は二人の関係を赤裸々に書いています。

――お前の指を、 手を、 腕を、 胸を、 頬を、 瞼を、 舌を、 歯を、 脚を愛着した。

――床に入って、 清野の温い腕を取り、 胸を抱き、 うなじを擁する。 清野も夢現のように私の頸を強く抱いて自分の顔の上にのせる。

私の頬が彼の頬に重みをかけたり、 私の渇いた脣が彼の額やまぶたに落ちている」(以上本文より)

うなじも唇もゆるしあっていた川端と少年。

しかしある出来事をきっかけに、 少年と会うことを完全に止めてしまいます。 川端22歳の夏、 京都嵯峨での事でした。 唐突な別れの裏に何があったのか。

川端が「妬み」と書いたのはなぜなのか……。

川端は作中で、 自分の心を次のように吐露しています。

――幼少から、 世間並みではなく、 不幸に不自然に育って来た私は、 そのためにかたくななゆがんだ人間になって、 いじけた心を小さな殻に閉じ籠らせていると信じ、

それを苦に病んでいた。 人の好意を、 こんな人間の私に対してもと、 一入ありがたく感じて来た。 そうして、 自分の心を畸形と思うのが、

反って私をその畸形から逃れにくくもしていたようである。

自分の心を「畸形」と書く、 痛ましく淋しい自己認識。 さらに、 「清野少年と暮した一年間は、 一つの救いであった。

私の精神の途上の一つの救いであった」とも書いています。

ではなぜ、 あれほど愛した少年との交流を絶ったのか。 川端の孤独な魂にとって「少年」とはなんだったのか。 そしてなぜ後年、 50歳になった時に、

本作『少年』を書くことにしたのか――。

作家の精神の謎は容易に解けるものではありません。 しかし、 50年前の自死の謎を考える手がかりが本書にあるとしたら、

まぎれもなく〈BL文学〉の名編といえるのです。

■購買層の特徴

発売前の反響からも、 BLファンの女性読者に手に取られていると分析できます。 先ず、 読者全体の3分の1を30~40代の女性が占めています。 また、

読者が併買した書籍として、 よしながふみ『きのう何食べた?』(講談社)の最新刊や、 萩尾望都『ポーの一族 秘密の花園』(小学館)等が上位にランクイン。

比較として、 同じく川端の『古都』のデータを見ると、 上位を占めるのは他の川端作品や、 三島由紀夫等が大半。

手に取っている読者の傾向から見ても『少年』の売れ方は異例と言えます。

■著者紹介:川端康成(1899-1972)

1899(明治32)年、 大阪生れ。 東京帝国大学国文学科卒業。 一高時代の1918(大正7)年の秋に初めて伊豆へ旅行。 以降約10年間にわたり、

毎年伊豆湯ケ島に長期滞在する。 菊池寛の了解を得て1921年、 第六次「新思潮」を発刊。 新感覚派作家として独自の文学を貫いた。

1968(昭和43)年ノーベル文学賞受賞。 1972年4月16日、 逗子の仕事部屋で自死。

著書に『伊豆の踊子』『雪国』『古都』『山の音』『眠れる美女』など多数。

■『少年』内容紹介

お前の指を、 腕を、 舌を、 愛着した。 僕はお前に恋していた――。 相手は旧制中学の美しい後輩、 清野少年。 寄宿舎での特別な関係と青春の懊悩を、

五十歳の川端は追想し書き進めていく。 互いにゆるしあった胸や唇、 震えるような時間、 唐突に訪れた京都嵯峨の別れ。

自分の心を「畸形」と思っていた著者がかけがえのない日々を綴り、 人生の愛惜と寂寞が滲む。 川端文学の原点に触れる知られざる名編。

■書籍データ

【タイトル】少年

【著者名】川端康成

【発売日】2022年3月28日

【造本】文庫版(192ページ)

【本体価格】539円(税込)

【ISBN】978-410-100106-7

【URL】

https://www.shinchosha.co.jp/book/100106/