ビジネスに活かせる本物の「アート思考」とは。『画商が読み解く西洋アートのビジネス史』発売

2022年12月26日

取締役社長：谷口奈緒美）は2022年12月23日に『画商が読み解く西洋アートのビジネス史』（高橋芳郎・著）を刊行しました。

* 「アートブーム」の最中にある現代

いま、「アート」に注目が集まっています。

たとえば2017年には、レオナルド・ダ・ヴィンチ作といわれる絵画《救世主》がオークションに出品され、約510億円で落札されました。これは、絵画の価格として史上最高額です（2022年12月現在）。

また、2021年には、正体を明かさない覆面アーティストのバンクシーの作品《愛はごみ箱の中に》が約29億円で落札されました。この作品は3年前のオークションで、落札されると同時に仕込まれたシュレッダーが作動して絵が裁断され話題となったものです。当時は約1.5億円で落札されたので、わずか3年で価格が19倍となりました。

このように、資産性の高いアートの価格指数は株や不動産よりも値上がり率が高く、富裕層の間で人気が高まっています。

しかし、アートは価格だけで判断するべきものでしょうか？

このところ、アートの経済的側面ばかりがクローズアップされているようにも見えますが、本来アートは言葉で言い尽くせないような、見ることで感動や喜びがもたらされる審美的価値が本来の価値であり、それが社会的な制度として広まることで美術館が造られたり、教育にも取り入れられたりするなどの社会的な価値を獲得していきました。

本書では、東京・京橋に画廊を構える著者が、アートの経済的価値に焦点を当てて、アートの歴史を紐解き、アートのもつ価値の転換がいつどのようにして起こったのかを、アートとビジネスの狭間に立つ美術商の視点から読み解いたものです。

* アートもビジネスも虚構である

歴史学者のユヴァル・ノア・ハラリは、著書『サピエンス全史』で、ホモ・サピエンスと呼ばれる現生人類が他の人類との競争に打ち勝って繁栄することができた理由を、虚構を作って信じる能力が高かったからだとしています。ここでいう虚構とは、宗教やお金や国家のことです。

「神のために戦う」とか「国家のために戦う」という虚構がなければ、協力し合って敵に立ち向かっていくことができません。唯一、ホモ・サピエンスのみが宗教や国家を信じて、支配地域を広げていきました。ユヴァル・ノア・ハラリはこれを「認知革命」と呼んでいます。

国家もお金も虚構であるとすれば、アートもビジネスも虚構になります。しかし、人間は石器時代から壁画を描き、お金が存在しない時代から物々交換などでビジネスを行ってきました。

アートやビジネスは虚構であるとしても、その虚構の起源は古く、どちらも人間の根源的な欲望と深く関わっているのです。

アートは多くの人が求めるものであったがゆえに、ビジネスと結びついて、高度に発展してきたのです。

* アートとビジネスの共通点

アートとビジネスには大きな共通点があります。

それは、どちらも虚構でありながら、その根源に人と人とのつながりに欠かせないコミュニケーションを抱えているということです。

アートは、作り手が作品に込めたメッセージを観る人が読み解くことでコミュニケーションが生まれます。ビジネスでは、顧客が求めるモノやサービスを提供することで、その意義を見出した顧客とのコミュニケーションが発生します。

アートが人々のあいだで、どのようにして経済的価値をもつにいたったかを見ていくと、アートとビジネスの成り立ちは驚くほど似ているのです。