大麦摂取による脂質蓄積減少のメカニズムが明らかに腸内の胆汁酸組成とシグナルについて解析

Biochemistry』掲載- 『主食改革』を提唱する株式会社はくばく(本社:山梨県中央市、代表取締役社長:長澤

重俊)は、大妻女子大学家政学部食物学科栄養学研究室青江誠一郎教授との共同研究により、大麦を食べると脂質の蓄積が下がるメカニズムとして、腸内の胆汁酸組成とシグナル伝達物質の変動が関与していることを明らかにしました。これまでは大麦に含まれる食物繊維が腸内に到達する食品の消化吸収を緩やかにし、便の排泄量を増加させることが主な作用とされてきましたが、本研究により腸内における胆汁酸の変動を介した作用も影響を与える事が示されました。

本研究成果は科学雑誌『Journal of Nutritional Biochemistry』(2023, Volume 125)に掲載されました。 <研究のポイント>

・大麦を食べる事による脂質の低下メカニズムについて、胆汁酸シグナルに焦点を当てて動物レベルで調査しました。

・適度な量の大麦を食べることで、小腸下部で胆汁酸の吸収が促されることが明らかとなりました。

・また大腸では二次胆汁酸が適度に増加して受容体が活性化し、脂質合成に関わる遺伝子の発現が低下しました。

・こうした胆汁酸組成の変動とシグナル伝達が、脂質蓄積の低下に寄与することが示されました。

■研究の背景と目的

大麦はβ-グルカン1)などの食物繊維を多く含む穀類であり、血糖値の上昇や脂質の蓄積を防ぐことが示されています。

その効果の1つは、β-グルカンが腸内でゲルを形成して消化吸収を阻害することで、胆汁酸2)を含む脂質の排泄量を増やすことが一因とされています。

一方で、先行研究の中には排泄量は増加せずとも脂質の蓄積が抑制されている報告もあり、異なるメカニズムが影響を与えている可能性を考えました。

そこで、私たちは胆汁酸のシグナルに焦点を当てました。胆汁酸はFxr3)やTgr54)などの受容体を介したシグナルによって恒常性が維持されていますが、脂質代謝にも影響を与えることが示唆されています。

加えて、胆汁酸は腸内にて腸内細菌の代謝を受ける事も知られていますが、大麦の摂取による影響は殆ど明らかになっていませんでした。

以上より、本研究ではマウスに大麦を摂取させ、腸管での胆汁酸の組成やFxrやTgr5を介したシグナルの変化が脂質の蓄積に影響を与えるか調査しました。

■研究方法

【試験1】

4週齢のC57BL/6Jマウスを2群(n=8)に分け、セルロース(HC)、あるいは大麦粉(HB)を繊維源として同等量含む高脂肪食を12週間摂取させました。

その後、肝臓、糞便中の脂質量を確認し、盲腸、糞便中の胆汁酸組成及び濃度をGC/MSを用いて測定しました。血清中の脂質量を酵素法にて測定し、血中と門脈5)血中の代謝産物量をメタボローム分析6)を用いて測定しました。

回腸と肝臓において、脂質代謝や胆汁酸代謝に関わる遺伝子発現量をReal-Time PCR7)で定量しました。

【試験2】

4週齢のC57BL/6Jマウスを抗生物質混合水、または通常の飲料水を与える群に分けて、それぞれの水と固形飼料を4週間摂取させました。その後、マウスを試験1と同様に各2群の計4群に分け、(飲料水:HC、HB、抗生物質混合水:AC(抗生物質混合水とセルロース食)、AB(抗生物質混合水と大麦食))10週間摂取させました。

その後、試験1と同様の項目(結腸の遺伝子発現量も測定)を測定しました。肝臓内のタンパク質を抽出し、AMPK8)及びpAMPK濃度をウエスタンブロット法9)にて定量しました。

さらに肝臓中のAMPKシグナルに関する遺伝子発現量を網羅的に調査しました。

図1 研究の概要

■研究結果

【試験1】

HC群と比較して、HB群で血中脂質量が有意に低下し、肝臓脂質量も低下傾向を示した一方で、糞便中の脂質量に差はありませんでした。HB群では盲腸内で一次胆汁酸10)量が有意に低くなり、一部の二次胆汁酸11)量が有意に増加しました。

さらに肝臓内ではFxrの発現量が有意に増加し、胆汁酸合成に関わるCyp7a1の発現量が有意に低下しました。回腸ではTgr5や胆汁酸の移送に関わるIbabpの発現量が有意に増加しました。血中、門脈血中のメタボローム分析結果では一次胆汁酸やAMP12)の増加が見られました。

これらの結果から、大麦の摂取は回腸では胆汁酸の吸収を促進し、盲腸以降では二次胆汁酸を増加させ、肝臓と回腸でそれぞれFxrの活性化と、Tgr5の活性化を促すことが示されました。

図2 HCまたはHB食を食べたマウスの回腸、盲腸、糞便の胆汁酸量と、肝臓と回腸におけるFxrとTgr5の遺伝子発現量* p<0.05

(Journal of Nutritional Biochemistry (2023, Volume 125)より引用して作図)

【試験2】

血清、肝臓内の脂質含量について、HC群とHB群では試験1と同様の結果でしたが、抗生物質混合水を投与したACとAB群では差が見られませんでした。

試験1でも見られた胆汁酸組成及び胆汁酸代謝に関わる遺伝子発現量の変動はHC群とHB群において再現性が確認され、結腸でもHC群と比較してHB群でTgr5の遺伝子発現量が有意に増加しました。しかし、ACとAB群ではその違いが確認されませんでした。

試験1よりHC群と比較してHB群でAMPが増加したため、肝臓内のAMPK濃度を測定しました。HC群と比較してHB群ではpAMPK濃度及びpAMPK/AMPK比が有意に増加し、AMPKが活性化することが示唆されました。この効果はACとAB群の比較では見られませんでした。

さらに、肝臓内でのAMPKシグナル伝達に関わる遺伝子発現量を網羅的に確認したところ、HB群はHC群と比較してAMPKを活性化させる上流の遺伝子が殆ど増加してました。

これらの事からAMPKの活性化により脂質合成に関わる遺伝子が低下したことが示唆されました。

図3 各マウスの血清コレステロール、肝臓トリグリセリド濃度と肝臓内のpAMPK, AMPKのタンパク質濃度比

異なるアルファベット間で有意に差がある(p<0.05)

(Journal of Nutritional Biochemistry (2023, Volume 125)より引用して作図)

■今後の展望

本研究により動物モデルで、大麦を食べることによる脂質の低下作用の一つに胆汁酸を介した作用があることが明らかとなりました。

適度な量の大麦β-グルカン(本研究では2.8%)を摂取すると、排便量は増加せずに血中・肝臓中の脂質量が低下しました。また、回腸内では胆汁酸の再吸収が促進され、肝臓内でFxrが活性化することが示されました。

盲腸以降では腸内細菌によって一次胆汁酸が二次胆汁酸に変換されてTgr5が活性化し、cAMPが肝臓内に流入してAMPKが活性化しました。

つまり、肝臓-腸管内でそれぞれFxrとTgr5が活性化する事により、脂質合成に関わる遺伝子が低下して、脂質量が低下することが示唆されました。この効果は抗生物質混合水を投与して腸内細菌の活性を低下させたマウスでは確認されなかったことから、大麦の摂取による腸内での胆汁酸組成の変動が寄与している可能性があります。

結論として、大麦摂取による脂質蓄積の抑制効果には、胆汁酸を介したシグナルが関与していることが示されました。

■用語解説

(1)β-グルカン: グルコースがβ-グリコシド結合でつながった多糖類で、穀類や菌類、キノコ類に多く含まれる。

(2)胆汁酸:

腸内に入ってきた脂質とミセル化を形成して吸収を促進させる物質。肝臓でコレステロールから合成されたのち十二指腸に分泌され、回腸で殆どが再吸収(95%)される腸肝循環を繰り返す。

(3)Fxr:

胆汁酸の受容体。肝臓でのFxrの活性化は胆汁酸合成経路を負に制御する。また、回腸で活性化すると胆汁酸の再吸収を促進させ、肝臓に胆汁酸合成を抑制するシグナルを伝達する。

(4)Tgr5:

腸管や骨格筋などに発現している胆汁酸の受容体。胆汁酸によって活性化されると細胞内のcAMPを増加させたり、腸内分泌ホルモンを分泌したりと、様々な機能を持つ事が示唆されている。

(5)門脈: 消化管と肝臓をつなぐ血管。腸管で吸収された物質や、合成された代謝産物(メタボライト)を肝臓に運ぶ。

(6)メタボローム分析: 代謝産物(メタボライト)を網羅的に分析する手法

(7)Real-Time PCR: 特定のDNAやRNAの断片を増幅し、その増加量を蛍光物質を用いてリアルタイムでモニタリングする事で定量する手法。

(8)ウエスタンブロット法: 電気泳動で分離したタンパク質を、特定の抗体を利用して目的のタンパク質のみを検出・定量する手法。

(9)AMPK:

脂質代謝や糖代謝における中心的な調節因子。細胞内でエネルギーが低下しAMPが増加することで活性化し(pAMPKになり)、エネルギーの産生を促してたんぱく質や脂質の合成経路を抑制する。

(10)一次胆汁酸: 肝臓でコレステロールから生合成された胆汁酸。ヒトでは主にコール酸、ケノデオキシコール酸が該当する。

(11)二次胆汁酸: 腸内細菌によって代謝を受けた胆汁酸。デオキシコール酸やリトコール酸が該当する。またTgr5を強く活性化させる。

(12)AMP: 全ての生物に含まれ、生体内の各代謝にシグナル伝達物質として働く。

* はくばくについて

当社の社名「はくばく」は白い大麦という意味です。創業社長である祖父が「もっと麦ご飯を喜んで食べてもらいたい。」という思いから、大麦を一粒一粒半分に割って黒い筋を目立たなくした製品を開発しました。

以来、我々はくばくは穀物とともに歩み、精麦の他、雑穀、和麺、麦茶、穀粉、米を事業として手がけるようになりました。

人類を太古から支えてきた大切な「穀物」を、現代の食卓へもっと多く登場させ、もっと楽しんで食べてもらうこと。それは家族の笑顔が増えること。またそれは家族が健康になることだと考えています。これを実現するために、我々はくばくは主食であるごはんの「質」を見直す「主食改革」を、社員一丸となって本気で目指して参ります。

社名 : 株式会社はくばく

所在地 : 〒409-3843 山梨県中央市西花輪4629

代表 : 代表取締役社長 長澤 重俊

設立 : 昭和16年4月15日

資本金 : 98,000,000円